地方の呼吸器内科医ブログ

呼吸器内科です。今は肺癌に関わる記事を中心に書いていく予定です。

メトホルミンによる抗悪性腫瘍効果

doi.org/10.1016/j.lungcan.2020.11.011

Lung cancer 151(2021)8-15 

 

メトホルミンによる抗悪性腫瘍効果が期待されている事は過去にも報告はありました。(doi.org/10.2337/dc08-2175

糖尿病を持つ肺癌の患者にメトホルミンを投与する方法でしたが、今回は糖尿病に関係無くメトホルミンを抗癌剤と併用する試験みたいです。(baselieneでDMがあるのはメトホルミン群で27.8%、コントロール群で16.9%)

基本的には生存率に差が無い様ですが、PETで集積の強い肺扁平上皮癌ではメトホルミン上乗せの効果があるかもとの事です。

安全性としては倦怠感や食思不振などの有害事象はあったものの2群で大きな差は無く、低血糖や乳酸アシドーシスも無かったとの事です。

さすがにDMの有る無しに関係無くメトホルミンを入れるのは乱暴かもしれませんが、DMがあれば積極的にメトホルミンを考慮してもいいかも知れません。

 

でも選択されている化学療法がCBDCA+GEMみたいですが、今の時代に1st lineがこれは無いけどなあと、、、

 

 

目的:

過去のエビデンスからは、抗糖尿病薬であるメトホルミンが、癌代謝をコントロールする事で抗腫瘍効果を持つ事が示唆されてきた。化学療法にメトホルミンを加える事で肺癌患者の生存率改善に寄与するかを評価した。

 

方法:

このランダム化第二相試験は、化学療法を受けた事が無く、EGFR、ALK陰性のstageⅢb/Ⅳの非小細胞肺癌患者164人が登録された。患者は化学療法にメトホルミン(1000mgを1日2回)加える、もしくは化学療法単独を3週毎に6コース投与した。

患者はゲムシタビン(1000mg/m2)をday1、8にカルボプラチン(AUC5)をday1に投与された。探索的研究が含まれ、血清代謝パネル、PET、代謝関連遺伝子の遺伝子変異とした。

 

結果: 

メトホルミン群はコントロール群に比べて、進行と死亡のリスクに優位差を示さなかった。 (progression: hazard ratio [HR] = 1.01 [95% confidence interval (CI) = 0.72 − 1.42], P = 0.935;death: HR = 0.95 [95% CI = 0.67–1.34], P = 0.757) 

扁平上皮癌はbase lineのPETで非扁平上皮癌に比べてPETのFDG集積が優位に高かった。

(p=0.004) 

扁平上皮癌でFDGの取り込みが高い場合、メトホルミンの追加により、進行と死亡のリスクが大幅に減少した。 (progression: HR = 0.31 [95% CI = 0.12− 0.78], P = 0.013; death: HR = 0.42 [95% CI = 0.18–0.94], P = 0.035).

HDLコレステロールレベルは、コントロール群と比較してメトホルミン群では治療後に有意に増加した。(P = 0.011)

インスリン血症や治療後にインスリンレベルが減少した患者に関しても延命効果をもたらさなかった。 

結論:化学療法へのメトホルミンの追加は非小細胞肺癌の患者への延命効果をもたらさなかった。しかしながら、FDG取り込みが高い扁平上皮癌に関しては優位に生命予後が延長した。これは、糖代謝に高く依存する腫瘍にメトホルミンが相乗的に抗腫瘍効果をもたらす事が示唆された。 

 

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睡眠時無呼吸症候群のCPAP治療

睡眠時無呼吸症候群へのCPAP治療は高いエビデンスがあり効果が実証されています。

35個のRCTをまとめたmeta-analysisではコントロール群に比べてAHIの優位な減少(-33.8 events/hr) があり、ESSを用いた評価で日中の眠気が改善し、血圧低下、QOL改善が示されました。ただ死亡率の減少までは証明はされませんでした。(JAMA. 2017;317(4):415. )

 

2019年のAmerican Academy of Sleep Medicineのmeta-analysisでは、CPAPは治療しない事に比べて、AHIを減らし(中央値-23/hr 95%信頼区画 -18 ~ -29 events/hr ) 眠気を改善し、血圧を減らし (収縮期血圧  -4.2 mmHg; 95% CI -6.0 to -2.5 mmHg 、拡張期血圧  -2.3 mmHg; 95% CI -3.7 to -0.9) 、交通事故を減らし(HR:0.30)、QOLを改善させる。ただし、死亡率、心血管疾患、気分障害、空腹時血糖、HbA1c、左心機能、入院率には優位差は無かったとしています。 doi: 10.5664/jcsm.7638.

血圧降下作用はありますが、4mmHg程度しか下がりません。

ただ、別の研究にはなりますが、CPAPに加えて減量を指示する事でCPAP単独よりも血圧を下げた報告があります。DOI: 10.1056/NEJMoa1306187

ですので繰り返しになりますが、CPAPだけで無く減量も指示する必要があります。 

 

OSASは、間欠的な低酸素、炎症性メディエーター増加に伴う代謝障害、奇異性呼吸に伴う胸腔内圧低下など複合的な要素があると言われています。

低酸素に対して酸素補給をするだけでは、十分ではなく、夜間の酸素補充とCPAPを比較した試験もあります。心血管疾患、または複数の心血管因子を有する患者において、閉塞性睡眠時無呼吸症候群に関してはCPAPで優位に血圧低下するものの、酸素補充だけではその様な作用はありませんでした。DOI:10.1056/NEJMoa1306766 

 

日本の保険適応では、

簡易検査でAHI≧40もしくは、精密PSGでAHI≧20でかつ、不眠などの症状を有する場合とされています。

 

ではいざ、CPAPを導入するとなるとどの様な設定を選択すべきでしょうか。

以前はタイトレーションといって、PSGを行いながら、無呼吸/低呼吸、いびきなどの症状を見ながら適正圧を調整する方法が主流でしたが、現在はauto CPAPといって吸気や呼気に合わせて事前に設定された圧の範囲内で機械が自動調整する方法が一般的となりつつあります。マニュアルでのタイトレーションによる方法とauto CPAPではアドヒアランスに差はないと言われています。

ですので、aute CPAPで導入し、圧は4~10cmH2O程度から始める事が一般的です。 

 

CPAP使用患者はアドヒアランス維持が出来ず、drop outする患者も多いです。どの程度の使用でアドヒアランスが保てているかというと、

・4時間以上の使用が

・70%以上 とされています。 

 

複数の報告をまとめるとその遵守率が30~60%という報告もあります。

Adherence to Continuous Positive Airway Pressure

 

マスク

基本は鼻マスクを使用する事が多いです。

他のマスクとしては鼻・口マスク、鼻孔に入れるピロー型があります。

口呼吸が多く、リークが多い時には鼻・口マスクも考慮しますが、

鼻マスク、鼻・口マスク、ピロー型の3つで比べた試験(Chest 153:665-674,2018 )では、鼻・口マスクでは使用時間が短く、CPAP使用時の残存AHIが高いとの報告があります。

マスク変更以外の方法としては、鼻マスクに加えてチンストラップという、口を開けにくくする補助具を使用する事もあります。 

 

もし、CPAPアドヒアランスを保てない場合には、患者と相談の上、口腔内装置(マウスピース)への変更を考慮します。

口腔内装置は本来軽症~中等症に使用するOSASの治療になります。 

AHIを減少させる作用は、複数報告があり、AHIが38±22 からAHI 14±13.2に減量した報告もあります。 

 

保険診療で作成可能です。作成に当たっては歯科に紹介する必要がありますが、出来る歯科医院もしくは口腔外科は限られており、普段から紹介可能な歯科医院を選定しておく必要があると思われます。

3割診療で約1万5千円程度かかります。

睡眠時無呼吸症候群の診療フローチャート

睡眠時無呼吸症候群診療ガイドライン2020を元に作成しました。

ポイントは

・無呼吸を疑う患者では精査を進めながらも生活習慣の是正を行う。

・(記載はしていませんが)問診票だけで除外はせず、診療所でも可能な簡易検査を行う。

・簡易検査でAHI≧40ならば保険診療CPAP導入可能。

・簡易検査でAHI<40ならば専門施設に紹介してPSG施行してもらう。

・PSGでAHI≧20であればCPAP導入考慮する。

・重症SASの患者で(特に若年者)では手術適応を見逃さない。

CPAP治療が継続困難な場合や軽症~中等症の場合は口腔内装置も治療選択肢になる。

 

簡易検査では日によってAHIが変動する事もあるので、2回行う施設もあります。2日とも40以上であればCPAP導入で良いでしょうが、1日目40以上、2日目40未満など日によって異なるケースではPSGでの診断確定が望まれるのでは無いかと思われます。 

 

 

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睡眠時無呼吸症候群の治療(行動療法)

閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の治療に関して概説します。

 

行動療法 

・減量

肥満がある患者に関しては減量が望ましいです。後述するCPAP療法だけよりもCPAPと減量を組み合わせる事でより血圧降下作用やインスリン抵抗性が改善したRCTがあります。(N Eng L Med 2014; 370 : 2265-75.) 

ただ注意すべきはどの程度の肥満があるかという事です、言うまでも無く欧米人のOSASは高度の肥満を合併している事が多いです。ですので先述したRCTでは日本人と比べてbase lineが異なります。先述のRCTでもBMI≧30が組み入れ基準となっていました。日本人では比較的骨性成分の減少(小顎症)が多いと言われています。

減量してもAHIが変わらないケースも多く、初診時やCPAP導入時などに説明すべきかと思われます。ただ日本人でも肥満はOSASの重要なリスク因子である事は変わりません。日本人の男性を対象とした研究で、BMI>25.9以上の対象者では50%以上がRDI(呼吸障害指数)>15以上であったとする報告もあります。(Sleep 31: 419-425,2008)  

 

(減量してもなぜAHIが減少しないのでしょうか。閉塞性睡眠時無呼吸を生じるにはいくつかの要因があります。その一つに解剖学的な影響があります。咽頭が狭いと、舌根沈下を起こしやすいくなります。咽頭が狭くなるのは、軟部組織の増加と骨性成分の減少があります。肥満は主に軟部組織の増加の原因になります。骨性成分が十分に保たれていれば、多少肥満で軟部組織が増えても無呼吸にはなりません。顎が小さく、骨性成分が減少していると、肥満が無くとも通常の軟部組織量で無呼吸になる事があります。その様な患者が日本人には多いと言われているので、減量して軟部組織量を減少させてもAHIが変わらないといった事が起こりえるのかと思われます。)

 

・節酒

飲酒は無呼吸の原因となりえます。仕事をしている世代の男性と女性を集めて飲酒が睡眠関連呼吸障害(SDB)のリスクになるかの研究があり、女性では優位差はありませんでしたが、男性ではOdds比1.25倍SDBが多かったとされています。 

無呼吸を診断された患者には節酒を勧めるべきかと思われます。

 

睡眠薬の使用制限/中止

睡眠薬特にベンゾジアゼピン系の薬剤は上気道の筋緊張低下や呼吸中枢を抑制して、無呼吸を助長する可能性があります。

12例の重症OSAS患者にトリアゾラム0.25mgとプラセボを比較してトリアゾラム群の方がnon-REM睡眠での無呼吸、低呼吸状態が延長して、最低SpO22も低下した報告(Am J Respir Crit Care Med 1995; 151: 450-454.) もあります。

不眠を伴うOSAS患者では睡眠剤では無く、まずCPAP導入が勧められます。その上でも不眠の訴えがありQOLを損なう患者には睡眠剤を考慮しましょう。その場合はまずラメルテオンやスボレキサントなどの睡眠相を改善させる薬剤の方が呼吸抑制を起こさず利にかなっていると思われます。一方で中等症のOSASですでにCPAPが導入されておればベンゾジアゼピンでもプラセボとのランダム化比較でAHIやSpO2に悪影響を及ぼさないとの報告も多数あります。(Drugs 2009;69:77-91.) 

まとめると

・不眠の訴えがあるOSAS患者 ⇒ CPAP導入

CPAP導入でも不眠あり ⇒ ラメルテオン or スボレキサント ± BZ系

となります。

 

次回はCPAP、口腔内装置に関してまとめてみます。

 

睡眠時無呼吸症候群の診断/治療がなぜ重要か。

そもそも睡眠時無呼吸症候群を診断して、治療する意義はどこにあるのでしょうか。

 

大きく分けると3つの意義があると思われます。

① QOLの改善

② 併存疾患の管理/リスク低減

③ 交通事故のリスク低減

 

① QOLの改善

眠気、QOLの低下がある中~重症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群に関してCPAP療法が第一選択肢になります。CPAP療法によりQOLの改善が報告されています。(DOI: 10.15386/cjmed-593)

特に症状が強い患者では、QOL改善が見込まれると思われます。症状の尺度としてはESS(Epworth Sleepness Scale)がある。

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11点以上で強い眠気を示唆し、無呼吸症候群を疑うとされます。

これは私見ではありますが、治療前の症状が強い方が、後のCPAP治療のアドヒアランスが高い印象もあります。 

 

② 併存疾患の管理/リスク低減

SASに関わる様々な併存疾患があります。

・冠動脈疾患

脳梗塞 

不整脈(時に致死性) 

・高血圧

・糖尿病 

脂質異常症 

・認知機能障害 

・多血症

など挙げられます。悪性腫瘍の発生とも関係があるのではという報告もあります。(Current sleep Med Resp 3:1-10, 2017) 

特に、冠動脈疾患や脳梗塞などの心血管疾患(cardiovaslular disease CVD)に関しては独立した予後不良因子と言われています。間欠的な低酸素状態による交換神経の賦活、酸化ストレスや胸腔内圧上昇に伴う心負荷が原因と言われています。

下図も参照。

(J Thorac Dis 2018 Dec;10(Suppl 34):S4201-S4211.)

 

CVDのリスク減少には当然ながらコンプライアンスの維持が重要で、あるRCTでは、AHI15以上のOSAS患者に対してCPAP治療をしても優位なCVDリスク減少はありませんでしたが、4時間以上の使用に限ったサブグループ解析ではCVDの優位なリスク減少が得られた報告があります。(doi: 10.1164/rccm.201601-0088OC.) 

コンプライアンスが維持できている基準は一般的には4時間以上の使用が70%以上とされています。CPAP導入3ヶ月でコンプライアンスが維持出来ていたのは、50~60%とする報告もあります。(Sleep 35 : 757-767,2012)  

CVDリスク低減にはコンプライアンス維持も大事な問題だと思います。 

 

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③ 交通事故のリスク低減

忘れてはならないOSASの診断/治療の目的です。自動車運転死傷行為処罰法では飲酒や薬物使用とともに、病気で正常な運転が出来ないおそれがある事を知りながら、自動車を運転し、人を負傷・死亡させた時に最高で15年の懲役を科すとされています。 

 

CPAPを継続使用する事で自動車事故を減らす事が出来たmeta-analysisもあります。(Sleep 33:1373-1380,2010) 

職業ドラーバーは先述したESSなどの問診票で眠気を過小評価する傾向があります。職業ドライバーでSASの疑いがある時には特に問診票はあてにせず、必要があれば積極的に簡易PSGなどでの精査を進める必要があると思われます。

 

obstructive sleep apnea in adults (N Engj Med 2019;380:1442-9)

閉塞性睡眠時無呼吸症候群のNEJMに掲載されていた総説です。

抜粋しての意訳です。 

途中で息切れしたので出来た範囲で、、、

 

key clinical points 

・閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)は頻度が高く、交通事故や心血管疾患の独立したrisk factorである。

・家庭での睡眠時無呼吸検査(簡易検査)は、補助的には有用ではあるが、それだけではOSASを除外する事は出来ない。

脳梗塞や低換気症候群、慢性心不全、もしくはオピオイド使用中の患者に関しては、PSG(終夜睡眠ポリグラフィー検査)が勧められる。

CPAPは有症状性や中等症~重症の睡眠時無呼吸患者に考慮されるべきである。

CPAPを拒否するもしくは使用が困難な患者に対する、スリープスプリント(マウスピース)や手術療法などの代替手段に関しては、閉塞の性質や患者要因、好みなどを元に考慮されるべきである。

 

58歳女性、主訴:倦怠感と不眠。 

7~8時間の睡眠に関わらず、爽快感なく起床している。彼女は夫からあえぎ呼吸を指摘されていた。彼女は排尿のため起き、通常はすぐに眠れる。最近、職場からの帰りに運転している時に眠気を感じていた。肥満症、高血圧、2型糖尿病既往あり。BMI35、巨舌があり軟口蓋を閉塞する所見があった。どの様にこの患者を評価して治療すべきか? 

 

 

閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)は周期的な上気道閉塞に特徴づけられ、換気の減少や停止を起こし、低酸素や高炭酸ガス血症、呼吸停止を生じる。

多くの患者は自信の睡眠障害に気がつかず、医療機関に受診しない。 

 

疾患頻度(推測):

30~49歳 男性:10%、女性:3% 

50~70歳 男性:17%、女性:9% 

アメリカでは2400万人が未診断であると予測されている。 

 

Risk factor

・肥満 

最も重要なリスク因子。BMI30以上であれば、40%以上の患者でOSASが指摘されていた。

・男性

機序は不明。プロゲステロンが上気道の筋肉を刺激するので換気が保たれるので妊娠可能な女性より高齢女性の方が無呼吸が多いや、アンドロゲンが舌の筋肉量を上げて閉塞性無呼吸を悪化させるなど言われている。

甲状腺機能低下症

・末端肥大症

 

評価

閉塞性睡眠時無呼吸症候群は不眠を訴えるすべての患者に考慮すべきである。table1にある症状はSASの可能性を上げる。

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重要な事は、すべてのOSAS患者で不眠やあえぎを訴える訳では無い事である。

BMI値が高くなれば、OSASの頻度が増えるが、適正体重でもOSAS患者は存在しうる。

 

 

 

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診断

OSASはPSG(終夜睡眠ポリグラフィー検査)で診断されていた。夜間の無呼吸もしくは低呼吸指数をsleep laboratory(日本では無呼吸症候群を診療する病院での入院下)で 計測する。

閉塞性無呼吸は呼吸努力に反して、ほぼ完全な流速の途絶(>90%)が睡眠中に10秒以上生じる事で、低呼吸は30%以上の流速低下が少なくとも3%以上の血中酸素濃度の低下か覚醒反応と一般的には定義される。

 

AHI(無呼吸、低呼吸指数)が1時間に5回以上で閉塞性無呼吸と定義される。

軽症: AHI 5~15 

中等症:AHI 16~30 

重症: AHI 30以上 

 

AHIは体重、寝る体位、年齢、飲酒、薬剤、体液バランスなどで変化する。なのでAHIは計測する時間や夜間の内でも変化する。

それ故、疾患重症度や長期間のリスク評価のために、1晩の睡眠中に測定したAHIで評価する事に限界がある。

閉塞性無呼吸を診断する必要性が増えた事と検査コストを減らす目的で、自宅で行う簡易な診断ツールが開発され検討されてきた。

 

最もよく使用されている家庭での無呼吸検査(home sleep apnea test)は、睡眠時間の計測が出来ない。ゆえにAHI(無呼吸/低呼吸指数)を計測する事が出来ない。

その変わりこれらの機械ではREI(respiratory-event index)を計測する。REIはすべての無呼吸もしくは4%酸素濃度が低下する呼吸イベントの頻度を覚醒反応を除いた時間で計測する。

これらの試験はしばしば、閉塞性無呼吸の重症度を過小評価してしまう。

(訳注:AHIの分母は睡眠時間であるが、REIの分母は測定時間なので、睡眠時間<測定時間になる事が多く、同じ低呼吸・無呼吸イベント数であってもREIでは分母が大きくなり過小評価されてしまう。なので、REI<5でもOSASを除外する事は出来ない。ちなみにPSGでは脳波測定などで睡眠時間を計測可能。)

 

共存症 

未診断の閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者では健常者よりも3倍自動車事故を起こしやすいと言われる。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群は、心血管疾患のリスク増加と関係する。

 6000人(>40歳)以上のコホートで上位1/4以上のAHIを有する患者は、下位1/4に比べて、高血圧、脳梗塞、冠動脈疾患、心不全BMIや他の心血管リスクで調整しても高かった。 

 

AHI30以上では、睡眠関連の不整脈の頻度が多かった。

AHI20以上は、男性では4倍、女性では2倍の脳梗塞リスクとなる。

20年と観察期間の長い研究で、OSASは糖尿病の独立したリスクにもなる。同様の研究でAHI30以上の40~70歳男性では、癌による死亡率やすべての原因による死亡率を上昇させる事が示された。

 

OSASの治療 

最も効果的な治療は、睡眠中に上気道を開存させるためのCPAP療法である。

CPAPは吸気時も呼気時も一定の圧を上気道にかける。

AHIが15以上もしくは5~14であっても症状を伴う場合や心不全、高血圧、脳梗塞、冠動脈疾患などを有する場合は、CPAPでの治療が推奨される。

CPAPの適切な使用を4時間以上を70%以上の夜間に使用する事と定義した場合に、CPAPアドヒアランス保持率は75%程度と報告されていたが、実際にはもっと低いと思われる。陽圧換気の調整には様々な方法があり、吸気はより高い圧で設定して、呼気には低い圧にするや、呼吸毎の流速に応じて自動調整したり、呼気の最初に低圧にしたりする方法があるが、何れの方法もアドヒアランスを向上するに至っていない。

 

軽症のOSAS患者やCPAPを拒否した、もしくは維持不可能な患者に関しては下顎を前進させるための口腔内装置が候補になる。他に寝る体位の調整や咽頭の手術加療も選択肢になる。

あるRCTでは、口腔内装置よりもCPAPの方がAHIを減少させるのにより効果的であっtが、アドヒアランス率は口腔内装置の方が高かった。

口腔内装置は、CPAPが使用出来ない軽症~中等症のOSAS患者に推奨されているが、長期間の使用は、かみ合わせを変えてしまう。

 

生活習慣の是正

体重減少はすべてのOSASを持つ肥満患者に推奨される。体重減少とCPAPインスリン感受性や血中脂質をCPAP単独に比べて改善する事がRCTで示されている。

10kg以上の体重減少は軽症のOSAS患者50%以上を改善させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

睡眠時無呼吸症候群の診断

閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断基準はInternational classification of sleep disorders, 3rd edition(ICSD-3) で示された基準を用いる事が一般的となっている。(下記参照) 

 

要点としては、以下3つの何れも閉塞性睡眠時無呼吸症候群と診断する。

①日中の眠気や不眠などの症状を有するか、他者から見て無呼吸やいびきなどがありかつ、AHI≧5である事。

②高血圧、糖尿病、脳卒中、冠動脈疾患、心房細動、うっ血性心不全などの疾患がありかつ、AHI≧5である事。

③症状に関わらず、AHI≧15である事。 

 

睡眠時無呼吸症候群の診療ガイドライン2020より抜粋) 

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ここでいうAHIはあくまでもPSG(終夜睡眠ポリソノグラフィー)を行った上で算出されるAHIである。

PSGは入院で行う事が一般的でコストの観点(検査のみで3割負担約1万4千円+入院や食事費用)や仕事をしている世代には時間的にも制限がかかる。 

 

ややこしい事に閉塞性睡眠時無呼吸症候群診断基準とCPAP治療の保険適応でAHIの基準が異なる。 

 

CPAPの保険適応は、

① 簡易検査でAHI≧40/hr

② PSG検査でAHI≧20/hr

を満たし日中の傾眠、起床時の頭痛(夜間の間に蓄積された二酸化炭素の影響と言われる)などの症状があり日常生活に支障を来している症例とされる。 

 

ICSD-3でも簡易検査(OCST)でも診断は可能としている。

 

であるからし睡眠時無呼吸症候群を疑ったならまずは簡易検査を行う事が多い。費用も3割負担で3000円程度。

簡易検査はサチュレーションモニターとフローセンサーの付いた鼻カニュレと本体だけであり装用の負担は比較的少ない。

 

以下に睡眠時無呼吸症候群の診療ガイドライン2020に示されているフローチャートを示す。

 

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簡易検査にも問題点はあり、AHIは(低呼吸+無呼吸/総睡眠時間)で示される。 

PSGでは総睡眠時間も測定可能であるが、簡易検査では睡眠時間の測定が出来ない。

簡易検査でのAHIの分母は装着時間であり、AHIが過小評価される可能性もある。 

 

簡易検査では3%ODIを代用する場合もある。ODI=SpO2低下回数/時間で表され、装着時間を分母にする。3%SpO2が低下するとSpO2低下とカウントするので、3%ODIと言います。

ただ3%ODIのSASの診断精度は高くは無くAHI5~30で感度52%、特異度76%という報告もあります。