地方の呼吸器内科医ブログ

呼吸器内科です。今は肺癌に関わる記事を中心に書いていく予定です。

Ⅲ期肺癌の過去、現在、未来 その1 

現在Ⅲ期肺癌に関して大きな変革がもたらされてきています。 周術期での免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬の使用、根治化学放射線治療後の免疫チェックポイント阻害薬などが標準的な治療になりつつあります。 これらの新しい治療方法が出てきてはいます…

PPIがICIの効果を減弱する可能性

Efficacy of first-line atezolizumab combination therapy inpatients with non-small cell lung cancer receiving proton pumpinhibitors: post hoc analysis of IMpower150 British Journal of Cancer (2022) 126:42–47; https://doi.org/10.1038/s41416-…

KYENOTE407試験長期フォローアップデータ+リアルワールドデータ

J Clin Oncol. 2023 Feb 3;JCO2201990. doi: 10.1200/JCO.22.01990. JTO Clinical and Research Reports Vol. 4 No. 2: 100444. DOI:https://doi.org/10.1016/j.jtocrr.2022.100444 KEYNOTE-407試験長期フォローアップデータがJCOから、アメリカでのリアルワ…

KISEKI試験(WJOG12819L)

Lung Cancer 177 (2023) 44–50 A phase II study (WJOG12819L) to assess the efficacy of osimertinib in patients with EGFR mutation-positive NSCLC in whom systemic disease (T790M-negative) progressed after treatment with first- or second-gener…

呼吸器診断学3

肺腫瘤陰影をみた時の診断の流れを確認していきます。 日本CT検診学会のガイドラインに基づいた、肺結節陰影のフローチャートをお示しします。 充実性性結節と部分充実/スリガラス陰影で対応が異なっています。 充実性結節 10mm以上もしくは、10mm以下でも経…

Osimertinib PD後の2次治療に関して

FLAURA試験の結果を元にOsimertinibを1st lineから使用する事は標準的となっています。ただ、問題となるのはOsimertinibがPDとなった後の2nd line以降の治療戦略です。 肺癌診療ガイドラインでは、1st lineでOsimertinib PD後の2nd lineとしては「遺伝子変異…

吸入薬処方で考える様々な事。その1

COPD、喘息に関して治療の根幹は吸入薬である事に疑い様は無く、様々なエビデンスが創出されています。 ただ臨床試験での効果には、コンプライアンスが維持されている事が前提となる事と、実臨床で診ている患者と臨床試験で組み入れられた患者層が一致してい…

肺癌腔内照射

腔内照射と言えば、前立腺癌への小線源療法を思い浮かべる方が多いかもしれません。肺癌でも実は腔内照射は行われてはいます。 1922年に最初の肺癌への腔内照射の報告があります。現在はイリジウムが主流ですが、その当時はラドンを用いて硬性気管支鏡で行わ…

がん関連高カルシウム血症

肺癌診療でもしばしば、がん関連の高Ca血症は経験します。 最近NEJMに総説(N Engl J Med 2022;386:1443-51.)が出たので、要点を抜粋します。 key points - 様々ながんの経過で、がんの因子が正常なカルシウム及び骨代謝を圧倒することで高Ca血症を合併する…

Angiosarcoma 血管肉腫と肺転移

Angiosarcoma 血管肉腫は希な疾患ながら、悪性度の高い疾患として知られています。 2004 年までの解析で軟部肉腫の罹患率は 10 万人に 3.1 人で、軟部肉腫の4.1%を angiosarcoma が占め、50%が頭頸部に発症するとの事です。 頭部顔面発症例は予後不良で、…

肺癌とmultimorbidity

mutimorbidityは複数の慢性疾患を有する事ですが、特定の診断基準は無く、コンセンサスの得られた定義はありません。 ただ一般的には2つ以上の慢性疾患を併存している状態を指します。フィンランド、イタリア、オランダで行われた研究で65歳以上の男性に関し…

肺癌とPolypharmacyの関係

polypharmacyは老年医学では重要な問題として位置づけられています。5種類以上の内服をポリファーマシーと定義した時に高齢者の脆弱性や認知機能低下、転倒、薬剤有害事象が増えると言われています。(Journal of Clinical Epidemiology 65 (2012) 989e995) …

大量血胸の原因は?

症例80歳代女性。以前から転倒歴があるもののADLは自立。今回は転倒後に呼吸困難が悪化して救急要請となった。 胸部CTでは右大量胸水があり、右背側では濃度上昇あり。造影ではextravasationあり。右外傷性血気胸疑いながら、肋骨は陳旧性骨折が主体で明らか…

慢性咳嗽の問診~検査~診断的治療

慢性咳嗽では問診が重要な事に異論は無いと思われる。 問診を行うにもある程度鑑別疾患を想定しておく必要がある。 報告によって違いはあるが、慢性咳嗽の診断において頻度の多い疾患は、 ・咳喘息/気管支喘息 ・アトピー咳嗽 ・後鼻漏症候群 (もしくは、上…

呼吸器診断学 その2

前回診断学総論といった感じでしたが、今回からは”呼吸器”っぽい事をしていこうと思います。そもそも、この記事を書いていこうと思い立ったのは、呼吸器内科医としてよく相談されるケースに関して事前に答えを用意できる様にしておきたかったという事もあり…

TAPOs (Transient Asymptomatic Pulmonary Opacities)

知らなかった概念であり勉強しました。 Osimertinib最適使用ガイドラインでは間質性肺炎の発症率は6.8%と言われています。 下記に示す論文では間質性肺炎(ILD)の発症率は1~3%とされています。 ただ、ILDではなくTKI治療中に一時的に陰影が生じる現象が…

SMARCA4欠損腫瘍 

SMARCA4 欠損腫瘍(SMARCA4-deficient thoracic sarcoma)をご存じでしょうか。 2015年にLe Loarer らにより初めて報告された(Nat Genet 2015;47:1200-05)比較的新しい疾患概念です。SMARCA4はSWI/SNF複合体のサブユニットの1つであるBRG1蛋白をコードする…

Covid19感染後のrebound現象

最近では少なくなりましたが、第4波の頃はCovid19への標準的な治療後に再増悪するケースが散見されました。 この事象を表す共通した医学用語は定かではありませんが、聖路加病院からの報告があり紹介させて頂きます。 Steroid resistance and rebound phenom…

左腋窩リンパ節腫脹の原因は、、、

知っている人は知っているのでしょうか? この前経験した症例を振り返りさせて頂きます。 個人情報はぼかして、説明します。 高齢女性で肺に基礎疾患があり、1年に1回胸部CTを撮影している患者です。何十年前に左乳癌で手術加療された既往があります。 1年振…

Long covid-19 (Covid19の後遺症)に関して

NHKのニュースでも取り上げられていましたが、コロナ後遺症に関してあまり知識が無く、読んでみました。 https://doi.org/10.1038/s41591-021-01433-3 ニュージャージー州バーゲン(Bergen) の312人コロナ患者(入院:65人、自宅隔離:247人)を6ヶ月症状を…

睡眠時無呼吸診断の参考所見

JAMA. 2013;310(7):731-741. doi:10.1001/jama.2013.276185 上記論文からの抜粋です。 無呼吸の目撃も特異度は高くないのですね。 以外と特異度が高いのが起床時の頭痛との事です。これは睡眠時無呼吸に伴う夜間のCO2貯留を反映した症状と言われています。 …

睡眠時無呼吸症候群の身体所見

以外とガイドラインにも記載が無いし、体系的に学ぶ機会が少ない事かと思われます。 ・Cricomental Space (JAMA August 21, 2013 Volume 310, Number 7より引用) 上記の様に下顎と輪状軟骨を結んだ線をCricomental Spaceと言います。この長さが1.5cm以上…

EGFR陽性、PD-L1高発現NSCLCへの抗PD-1/抗PD-L1阻害薬に関して

以前からEGFR陽性非小細胞肺癌(NSCLC)に関して、抗PD-L1阻害薬の効果が乏しい事は言われています。ただKeynote024試験に端を発し、PD-L1≧50%などの高発現群では抗PD-1阻害薬が有効である事は、肺癌領域では、もはや常識になりつつあります。(もちろんPD-L1…

呼吸器診断学

論文紹介も良いのですが、中々続かないので自分の興味がある事を紹介して参りたいと思います。 ”呼吸器診断学” に関して自分が考える事を紹介して参ります。 診断のオプション ・仮説演繹法 ・Semantic Qualifier (SQ) ・illness script (疾患の典型例) ・…

間質性肺炎急性増悪の呼吸管理

かねてから間質性肺炎急性増悪の呼吸管理に関しては、ネーザルハイフローが良いのではないかと考えていました。 NPPVであれば、長期間の装用に耐えられないし、IPPVでも同様ですが、高いPEEPや肺胞にかかる圧により人工呼吸関連の肺障害を起こすのでは無いか…

メトホルミンによる抗悪性腫瘍効果

doi.org/10.1016/j.lungcan.2020.11.011 Lung cancer 151(2021)8-15 メトホルミンによる抗悪性腫瘍効果が期待されている事は過去にも報告はありました。(doi.org/10.2337/dc08-2175) 糖尿病を持つ肺癌の患者にメトホルミンを投与する方法でしたが、今回は…

睡眠時無呼吸症候群のCPAP治療

睡眠時無呼吸症候群へのCPAP治療は高いエビデンスがあり効果が実証されています。 35個のRCTをまとめたmeta-analysisではコントロール群に比べてAHIの優位な減少(-33.8 events/hr) があり、ESSを用いた評価で日中の眠気が改善し、血圧低下、QOL改善が示され…

睡眠時無呼吸症候群の診療フローチャート

睡眠時無呼吸症候群診療ガイドライン2020を元に作成しました。 ポイントは ・無呼吸を疑う患者では精査を進めながらも生活習慣の是正を行う。 ・(記載はしていませんが)問診票だけで除外はせず、診療所でも可能な簡易検査を行う。 ・簡易検査でAHI≧40なら…

睡眠時無呼吸症候群の治療(行動療法)

閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の治療に関して概説します。 行動療法 ・減量 肥満がある患者に関しては減量が望ましいです。後述するCPAP療法だけよりもCPAPと減量を組み合わせる事でより血圧降下作用やインスリン抵抗性が改善したRCTがあります。(N Eng L…

睡眠時無呼吸症候群の診断/治療がなぜ重要か。

そもそも睡眠時無呼吸症候群を診断して、治療する意義はどこにあるのでしょうか。 大きく分けると3つの意義があると思われます。 ① QOLの改善 ② 併存疾患の管理/リスク低減 ③ 交通事故のリスク低減 ① QOLの改善 眠気、QOLの低下がある中~重症の閉塞性睡眠時…