そもそも睡眠時無呼吸症候群を診断して、治療する意義はどこにあるのでしょうか。
大きく分けると3つの意義があると思われます。
① QOLの改善
② 併存疾患の管理/リスク低減
③ 交通事故のリスク低減
① QOLの改善
眠気、QOLの低下がある中~重症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群に関してCPAP療法が第一選択肢になります。CPAP療法によりQOLの改善が報告されています。(DOI: 10.15386/cjmed-593)
特に症状が強い患者では、QOL改善が見込まれると思われます。症状の尺度としてはESS(Epworth Sleepness Scale)がある。
11点以上で強い眠気を示唆し、無呼吸症候群を疑うとされます。
これは私見ではありますが、治療前の症状が強い方が、後のCPAP治療のアドヒアランスが高い印象もあります。
② 併存疾患の管理/リスク低減
SASに関わる様々な併存疾患があります。
・冠動脈疾患
・脳梗塞
・不整脈(時に致死性)
・高血圧
・糖尿病
・認知機能障害
・多血症
など挙げられます。悪性腫瘍の発生とも関係があるのではという報告もあります。(Current sleep Med Resp 3:1-10, 2017)
特に、冠動脈疾患や脳梗塞などの心血管疾患(cardiovaslular disease CVD)に関しては独立した予後不良因子と言われています。間欠的な低酸素状態による交換神経の賦活、酸化ストレスや胸腔内圧上昇に伴う心負荷が原因と言われています。
下図も参照。
(J Thorac Dis 2018 Dec;10(Suppl 34):S4201-S4211.)
CVDのリスク減少には当然ながらコンプライアンスの維持が重要で、あるRCTでは、AHI15以上のOSAS患者に対してCPAP治療をしても優位なCVDリスク減少はありませんでしたが、4時間以上の使用に限ったサブグループ解析ではCVDの優位なリスク減少が得られた報告があります。(doi: 10.1164/rccm.201601-0088OC.)
コンプライアンスが維持できている基準は一般的には4時間以上の使用が70%以上とされています。CPAP導入3ヶ月でコンプライアンスが維持出来ていたのは、50~60%とする報告もあります。(Sleep 35 : 757-767,2012)
CVDリスク低減にはコンプライアンス維持も大事な問題だと思います。
③ 交通事故のリスク低減
忘れてはならないOSASの診断/治療の目的です。自動車運転死傷行為処罰法では飲酒や薬物使用とともに、病気で正常な運転が出来ないおそれがある事を知りながら、自動車を運転し、人を負傷・死亡させた時に最高で15年の懲役を科すとされています。
CPAPを継続使用する事で自動車事故を減らす事が出来たmeta-analysisもあります。(Sleep 33:1373-1380,2010)
職業ドラーバーは先述したESSなどの問診票で眠気を過小評価する傾向があります。職業ドライバーでSASの疑いがある時には特に問診票はあてにせず、必要があれば積極的に簡易PSGなどでの精査を進める必要があると思われます。