奈良の呼吸器内科医ブログ

呼吸器内科です。今は肺癌に関わる記事を中心に書いていく予定です。

肺癌とmultimorbidity

mutimorbidityは複数の慢性疾患を有する事ですが、特定の診断基準は無く、コンセンサスの得られた定義はありません。

ただ一般的には2つ以上の慢性疾患を併存している状態を指します。フィンランド、イタリア、オランダで行われた研究で65歳以上の男性に関して25年間コホートでフォローした研究で、冠動脈性心疾患、心不全、間欠性跛行、脳血管障害、糖尿病、COPD、癌のセットで年齢、他の疾患、コホートで調整した全死亡の相対リスクは、2疾患以上の併存があるとハザード比が1.58~2.62と上昇していた。最も死亡リスクの高い併存疾患は脳血管疾患との事でした。

A. Menotti et al. / Journal of Clinical Epidemiology 54 (2001) 680–686

 

併存疾患を評価する指標として、
Charlson Comorbidity Index(チャールソン併存疾患指数)があります。

1987年に作られた指標で、各疾患に点数が付けられています。合計スコアに応じて、10年生存率や10年死亡率を予測するというものです。

 

チャールソン併存疾患指数

685人の内科に通院する患者のコホートで10年での死亡率に関して

「0」8%、「1」25%、「2」48%、「3以上」59%で、併存疾患指数のレベルが上がるごとに、併存疾患に起因する累積死亡率が段階的に上昇したとの事でした。

J Chronic Dis. 1987;40(5):373-83.

 

肺癌とmultimorbidityの関係を評価した研究は少ないのですが、2021年にスペインから肺癌患者における半年後の死亡率とmultimorbidityの関係を研究した報告があります。 

 

Niksic et al. BMC Cancer (2021) 21:1048 

要約 
目的:慢性疾患はしばしば、同時期に生じて、有害な健康状態を引き起こす傾向がある。しかし、肺がん死亡率におけるそれらの役割を理解するための研究は限られている。そこで、本研究の目的は、スペインの肺癌患者における1つの慢性疾患(単一併存疾患)または2つ以上の慢性疾患(多疾患併存)の有病率とパターンを明らかにする事、そして単一併存疾患もしくは、他疾患併存の関係性、癌診断後6ヶ月での短期死亡率を検討する事である。
方法:この人口ベースのコホート試験では、二つのスペインの人口ベースのがん登録(ギオナ、グラナダ)と電子カルテから情報を抽出した。我々は2011年1月1日から2012年の12月31日までに診断された1259人の成人肺癌患者を特定した。個々の合併症の最も一般的なパターンを特定した。年齢、性別、喫煙の有無、居住地域、手術の有無癌の病期、組織型、BMIで調整した後、併存疾患のレベル別にがん診断後6ヶ月の短期死亡リスクを評価した。

結果 肺がん患者、特に高齢者、男性、進行がんの患者において、合併症の有病率が高いことがわかった。
特に、高齢者・男性・進行がんの患者・喫煙者・肥満の患者において死亡率が高かった。最も頻度の高い併存疾患は慢性閉塞性肺疾患(36.6%)、糖尿病(20.7%)、心不全(16.8%)であった。最も強いペアワイズ相関があったのは、
心不全と腎臓病(r = 0.20、p < 0.01)、心不全と糖尿病(r = 0.20、p < 0.01)の組み合わせであった。

結論 スペインでは、合併症の数よりも合併症の有無が、肺癌の短期死亡リスクの上昇と関連していた。

 

多疾患併存している事が肺癌の予後と影響があるかもしれないとの結果でしたが、最も有名な予後規定因子であるPSが調整されていないという、、、 

 

base lineを確認すると、高齢・男性・喫煙歴・肥満があるほどmutlimorbidityの頻度が高くなり死亡率が上がるという結果でした。multimorbidityという切り口でなくとも、そういう患者層は死亡率が高くなりそうである事は予測がつく様な気もします。

 

ただ高齢化を迎え、2人に1人は癌に罹患する本邦で肺癌診療(おそらくすべての癌腫で)において老年医学的な側面を無視出来なくなっている事は事実だと思います。