奈良の呼吸器内科医ブログ

呼吸器内科です。今は肺癌に関わる記事を中心に書いていく予定です。

Osimertinib PD後の2次治療に関して

FLAURA試験の結果を元にOsimertinibを1st lineから使用する事は標準的となっています。ただ、問題となるのはOsimertinibがPDとなった後の2nd line以降の治療戦略です。

肺癌診療ガイドラインでは、1st lineでOsimertinib PD後の2nd lineとしては「遺伝子変異/転座陰性、PD-L1 TPS:50%未満、もしくは不明の一次治療」と記載されています。

その中でも年齢とPSで治療方針は異なり、

・PS0~1、75歳未満 ⇒ プラチナ製剤併用±PD-1/PD-L1阻害薬、ペンブロリズマブ単剤(PD-L1≧1%)、ニボルマブ+イピリムマブ併用

 

・PS0~1、75歳以上 ⇒ 細胞障害性抗癌剤単剤、プラチナ製剤併用±PD-1/PD-L1阻害薬、ペンブロリズマブ単剤(PD-L1≧1%)

 

PS2 ⇒ 細胞障害性抗癌剤単剤、プラチナ併用療法 

 

となっています。 

PS0~1、75歳未満に関して

具体的に日本の保険診療で使用可能なレジメンを上記の条件に照らし合わせて列挙すると、、、

(ここでは、EGFR陽性肺癌であり、non-small , non-Sqに絞って記載しています。)

① CBDCA( or CDDP)+PEM+Pembrolizumab  (Keynote189試験)

② CBDCA+PTX+Atezolizumab+bevacizumab      (IMpower150試験)

③ CBDCA+nab-PTX+Atezolizumab                      (IMpower130試験) 

④ CBDCA+PTX+Nivolumab+Ipilimumab             (Checkmate9LA試験)

⑤ Pembrolizumab                 (Keynote042試験)

⑥ Nivolumab+Ipilimumab           (Checkmate227試験)

 

となります。では一体どれを使用すれば良いのでしょうか? 

まず、それぞれの根拠となる臨床試験ではEGFR遺伝子陽性例が含まれていたのかを確認していきます。EGFR陽性が含まれていたのは、②と③のIMpower150と130試験でした。他の試験ではEGFR患者は除外されており、EGFR陽性患者への効果は不明です。

IMpower150試験に関しては、肺癌をされている方には常識かもしれませんが、subgroup解析でEGFR陽性患者に関しても有効な可能性がありました。

n engl j med 378;24 nejm.org June 14, 2018

 

EGFR陽性例ではHR:0.59という事で41%のリスク減少で良い様な気がします。

ただ気をつけないといけない事は、EGFR陽性患者はCBDCA+PTX+Atezo+Bev(ABCP)を受けた全体の8.8%(35/400人)しかいませんでした。35人とコントロール群の45人の比較の上に事前に設定された評価項目では無いsubgroup解析であり、鵜呑みにして、ABCPを積極的に使用する根拠には乏しい様に思われます。 

 

またIMpower130試験はどうであったかというと、まず登録可能な症例はEGFR/ALK変異陽性で、TKI治療に不耐もしくは病勢進行後に登録可能との事でした。化学療法+ICI(CBDCA+nab-PTX+Atezo)群は合計483人でそのうちEGFR or ALK陽性者は32人(7%)でした。患者数が少ないもののEGFR・ALK陽性患者に限ればHR:0.98で1をまたぎ、優位な効果は得られませんでした。

ちなみに主要評価項目は、遺伝子変異陽性患者を除いたwild typeのITT集団におけるPFS、OSでした。

PFS中央値:7.0ヶ月(vs 5.5ヶ月)HR:0.64 

OS中央値:18.6ヶ月 (vs 13.9ヶ月)HR:0.79 

 

EGFR陽性かつPD-L1≧50%で、TKI未治療患者にPembrolizumabを投与した研究(J Thorac Oncol. 2018 August ; 13(8): 1138–1145. )がありますが、有効性は示されず、EGFR陽性・PD-L1:高発現患者への1st line のICI使用をすべきでは無いという結論でした。

なので、EGFR陽性者に関してPD-L1が高発現であってもKeynote024試験に準じたPembrolizumab単剤は避けた方が良いと思われます。

(抗PD-1単剤療法は、喫煙歴のない人が多いこと、TMBが低いこと、腫瘍T細胞の浸潤が少ないことなどが原因で、臨床効果が低いことが分かっているそうです) 

 

ではNivolumab+Ipilimumabはどうでしょうか。こに組み合わせに関してもEGFR陽性患者では良い結果は得られていません。 

EGFR陽性で、1st line でTKIがPDになったNSCLC患者を対象にNIvolumab vs Nivolumab+Ipilimumabを比較した第2相試験があります。(Lancet
. 2019 May 4;393(10183):1819-1830. doi: 10.1016/S0140-6736(18)32409-7. Epub 2019 Apr 4.)

この試験は無益性のため早期中止になりましたが、合計31人の患者が参加し、16人がNivo+ipi、15人がNivoに割り付けられ、それぞれPFS中央値が1.22ヶ月 vs 1.31ヶ月 p=0.96とPFSも短く、Ipilimumabの上乗せ効果もありませんでした。

 

結局のところ、現時点ではPS~1、75歳未満のOsimertinib PD後の2次治療に関して強固なエビデンスのある治療はないとしか言いようがありませんが、少なくともプラチナ併用の化学療法にICIを加える治療が望ましいのではないかと思われます。

 

使い分けとしては、色々な考えがあるとは思いますが、大きく分けると、、

・PEMが使用可能か

・bevacizumabが使用可能か、もしくはbevacizumabの上乗せに期待出来るか

になるのではないでしょうか。 

 

PEMに関しては間質性肺炎Ccr:45ml/min未満の腎機能障害がある症例に関しては使用する事は難しいです。 

腎機能障害がある症例に関しては、CBDCA+nab-PTX+Atezolizumabを使う事が多いかと思います。実際現在、腎機能低下進行非扁平上皮非小細胞肺癌を対象としたCBDCA+nab-PTX+Atezolizumabの有効性を検討する第2相試験が進行中です。(LOGIC2002試験)

 

間質性肺炎を有する患者では通常TKIを使用しないので、通常は現在の議論には関係ないことかと思われます。

ちなみにいうと、間質性肺炎合併の切除不能NSCLCに関して、間質性肺炎がUIP patternではなく、%VC≧80%を満たす症例(18例)に関してNivolumabの安全性と有効性を検討した試験があり奏効割合 39%,PFS中央値 7.4 ヵ月、OS中央値 15.6 ヵ 月(Lung Cancer. 2017;111:1-5.) と有望な結果がえられています。

間質性肺炎合併肺癌であれば、すべてICI禁忌ではなくなってきています。

 

bevacizumabに関しては、以前から胸水症例に関しては胸水コントロールが得られやすい事は報告されています。

さらにIMpower130試験、IMpower150試験の結果を基にすると肝転移症例に関してはBevacizumabの上乗せ効果がありそうです。

 

 

 

 

 

 

吸入薬処方で考える様々な事。その1

COPD、喘息に関して治療の根幹は吸入薬である事に疑い様は無く、様々なエビデンスが創出されています。

ただ臨床試験での効果には、コンプライアンスが維持されている事が前提となる事と、実臨床で診ている患者と臨床試験で組み入れられた患者層が一致しているかを考える事が重要かと思います。

3剤吸入(ICS/LABA/LAMA)に関する最も有名な論文の一つであるIMPACT study (N Engl J Med 2018; 378:1671-1680) を例に挙げて説明します。

(略語  ICS:吸入ステロイド、LABA:長時間作用型β2刺激薬、LAMA:長時間作用型抗コリン薬)

FLAME study (N Engl J Med 2016; 374:2222-2234)を元に以前は中等症以上のCOPDへの吸入薬はLABA/LAMAが主流でした。ただ中等症~重症COPD患者にICSを追加する事で1秒量の減少を低下させる事が出来て、COPD増悪の頻度も減らせる事が出来るものの肺炎の頻度は増加する事が知られていました。(N Engl J Med 2014; 371:1285-1294、N Engl J Med 2020; 383:35-48、N Engl J Med 2007; 356:775-789)

そこで、ICS/LABA/LAMA3剤を合剤にして一つのデバイスにまとめてしまい治療した場合どうなるかを検討した試験がIMPACT試験です。がっつりグラクソスミスクラインの支援を受けた試験です。 

結果としては、中等症~重症のCOPD増悪が生じる頻度は3剤(ICS/LABA/LAMA)群で0.91/year、ICS/LABA群で1.07/year (HR:0.85 ,95%CI: 0.80-0.95)、LABA/LAMA群で1.21/year (HR:0.75 ,95%CI: 0.70-0.81) であり優位に3剤で増悪頻度は減少したとの事でした。  

肺炎の頻度に関しては3剤群で8%、ICS/LABA群で7%、LABA/LAMA群で5%とLABA/LAMAとLABA/LAMA群で肺炎の合併症が低い傾向にあるとの事です。(HR:1.53 95%CI:1.22-1.92; P<0.001) ただ肺炎自体は軽症が多かったとの事です。

 

これを元にCOPDに対しても3剤(ICS/LABA/LAMA)で治療する事が増えている印象です。

ただ今回のIMPACT試験に関して注目すべきはその”method”と”患者背景”です。

組み入れられているのは、

・40歳以上のCOPD患者

・CAT(COPD Assesment Test) 10点以上

・%1秒量:50%未満で少なくとも1回以上の中等症~重度のCOPD増悪歴が過去1年以内にある。

・%1秒量:50~80%で2回以上の中等症のCOPD増悪もしくは1回の重度のCOPD増悪が過去1年以内にある。

・ランダム化される2週間は元々の吸入薬を継続出来る。

とされています。

 中等症の増悪:抗菌薬や全身ステロイド投与が必要であるが、外来で治療可能。

 重症の増悪:入院が必要もしくは死亡症例。

それを元に組み入れられた患者数が10355人で、それらの患者背景がtable1にまとめられています。

さて、色々と考えさせられる事があります。

実臨床で出会うCOPD患者はどんな感じでしょうか?

普通は高齢で痩せている男性が多いかと思います。

先程のIMPACT試験では年齢の中央値が65.3歳で、BMIの中央値が26.6(!)

そこそこ若くて、体格がしっかりしたCOPD患者が対象になっているのです。その様な方々が少なくとも1年以内に1回は全身ステロイドが必要か入院する様な増悪をしているって普通にある事でしょうか。COPDだけでなく、喘息発作の要因も重なっているとも考えられるかもしれません。ICSを加える事が有利な結果になりそうですね。

COPDに関する臨床研究で喘息要素を除外しても半数程度は喘息の特徴を有していたとの報告もあります。

実際に今、あなたが診ているCOPD患者さんと臨床試験での患者背景が似ているかどうかを判断する事は重要で、盲目的に"positive study"を信じる事は危険な事かと思われます。

(余談:COPDには2パターンありpink pufferとblue bloaterがあります。pink pufferは日本人で多い様な、痩せ型で気腫肺優位なCOPD。(図左)それに対してblue bloaterは慢性気管支炎タイプが多く、痰の量が多いと言われています。(図右)blue bloaterと言われているのは体格が良く、容易にチアノーゼを呈するからとされていて欧米に多いタイプのCOPDみたいです。前述のIMPACT試験の患者層でBMIが比較的高いのはblue bloater タイプが多く組み入れられているからかもしれません。ちなみにIMPACT試験では日本人の割合は4%との事です。) Int J Chron Obstruct Pulmon Dis
. 2019 Dec 6;14:2849-2861.

(ネッター解剖学より) 


IMPACT試験ではアドヒアランスの維持と増悪しているかどうかの判断のために電子日記を用いて症状などを毎朝記録する必要がありました。アドヒアランス不良と吸入デバイスの操作ミスは考慮されていない事になります。これも実臨床とは乖離している事かと思われます。

実臨床では吸入薬のアドヒアランスを維持する事は難しいです。当たり前ですが、アドヒアランスを維持出来れば、症状コントロール、肺機能も良好になり、医療コストの低下にもなるという報告もあります。(Respiratory Medicine (2013) 107, 1481e1490)

 

吸入デバイスの誤使用も重要な問題です。

一つ論文を紹介させて頂きます。 

 Eur Respir J 2017; 49: 1601794

実臨床での吸入デバイス手技とCOPD増悪の関係を明らかにする事を目的とした論文です。フランスの212施設の家庭医(GP)、50人の呼吸器内科医が参加し、2935人のCOPD患者が対象となりました。 

評価されたデバイスは、

・ブリーズヘラー

ディスカス

・ハンディヘラー

・pMDI  

・レスピマット

・タービュヘラー

が対象です。エリプタ製剤は含まれていませんでした。 

それぞれデバイスを使用する手順のどこに失敗があったかと言うと、、

・ブリーズヘラー

カプセル挿入のミス、噴霧するためのボタンを押して離す過程でのミス、吸入後もカプセル内に吸入薬が残っている。

ディスカス

レバーの操作ミス、残数が無いにもかかわらず吸入した。 

・ハンディヘラー

カプセル挿入ミス、噴霧するためのボタンを押して離す過程でのミス、吸入後もカプセル内に吸入薬が残っている。(当然ながらブリーズヘラーと同じ様なミスです) 

・pMDI 

吸入タイミングが合わない

・レスピマット 

装置内にカートリッジがない、用量カウンターに用量が残っていないにもかかわらず操作してしまった。台座のねじれの失敗、手の動作と吸入の同期不良。

・タービュヘラー

グリップを時計回りに回し、反時計回りに「カチッ」と音がするまで回す過程でのミス、用量カウンターに用量が残っていないにもかかわらず操作する。

 

この論文ではデバイスにかかわらず操作ミスは50%以上でみられたとの事です。

バイス毎には 

ブリーズヘラー:15.4%

ディスカス:21.2%

ハンディヘラー:29.3%

pMDI:43.8%

レスピマット:46.9%

タービュヘイラー:32.1%

で操作ミスがあったとの事で、ブリーズヘラーが最もミスが少なく、レスピマットが最もミスが多かったとの結論になっていました。

また、重度のCOPD悪化のために過去3ヶ月間に入院や救急外来を必要とした患者の割合は、エラーがない場合は3.3%(95%CI 2.0-4.5)、重大なエラーがある場合は6.9%(95%CI 5.3-8.5)(OR 1.86、95%CI 1.14-3.04、p<0.05)であったとの事です。

 

バイス操作ミスは重要な問題にも関わらず、過小評価されているかも知れません。

(というか、デバイスミスに気づけていないし、重要な問題と認識されていないかも知れません) 

 

初めて処方された場合は、薬剤師もしくは看護師などから吸入手技の説明がされるはずですが、再指導されている頻度は少なく、55.3%の薬剤師は手技の再指導はしていないとの事です。(長瀬 洋之 他: アレルギー・免疫 2013; 20(9),1332-1347)

 

高齢者へ吸入薬を処方する時には定期的に正しく吸入出来ているかをモニタリングするシステムが必要かも知れません。 

 

その2に続く。(はず)

 

 

 

 

 

 

肺癌腔内照射

腔内照射と言えば、前立腺癌への小線源療法を思い浮かべる方が多いかもしれません。肺癌でも実は腔内照射は行われてはいます。

1922年に最初の肺癌への腔内照射の報告があります。現在はイリジウムが主流ですが、その当時はラドンを用いて硬性気管支鏡で行われていたみたいです。

Yankauer S. Two cases of lung tumour treated
 bronchoscopically. N Y Med J 1992 ; 21 : 741-2. 

 

腔内照射の手順をお示しします、下記図も参照ください。

① 経鼻的に気管支鏡を病変部まで挿入する。 

② ガイドワイヤー(6fr 150mm)を鉗子口から挿入して、透視で腫瘍遠位部まで誘導出来ている事を確認する。 

③ ガイドワイヤーが腫瘍遠位部にある事を透視で確認しながら、気管支鏡を抜去していく。(ガイドワイヤーは留置した状態) 

④ 気管支鏡を抜去

⑤ ガイドワイヤーを通して専用のアプリケーターを挿入していく。

⑥ アプリケーターは近位部と遠位部にウイングがあり、腫瘍をウイングで挟む様に留置する。 

⑦ マウスピースから経口的に気管支鏡を挿入して、腫瘍とアプリケーターの位置を確認する。腫瘍がアプリケーターに接して、ウイング内に挟まれている事を確認し、ウイングを広げて固定する。アプリケーターに引っかからない様に気管支鏡を抜去する。

⑧ 線源移送用チューブをアプリケーター内に挿入する。

⑨ 線量分布を計画し照射する。 

 


日本胸部臨床71巻4号2012年4月p323-331.

マンパワーも準備も必要であり、どこの施設でも出来る手技ではないです。

 

欧米では、気管内狭窄などで姑息的に照射する事が一般的ですが、日本から早期の気管内腫瘍に対して根治的に照射した報告が散見されます。 

・高齢

・重複癌

・肺癌術後

・低肺機能 

などの事情で手術不能の早期肺癌に対して行われる事が多く、通常は体外照射と腔内照射を併用して治療される事が多いみたいです。

 

日本からの報告で40Gy/20frの体外照射に加えて、25Gy/5frの腔内照射で気管原発の早期肺癌を治療した39例の報告があり、観察期間中央値24.5ヶ月で2例のみ再発があり、放射線肺炎は2例のみで重篤な有害事象もなかったとの事です。

Int J Radiat Oncol Biol Phys. 1996 Mar 15;34(5):1029-35.

 

同じく日本からの報告で64例の腔内照射を施行した肺癌患者の長期フォローアップデータが出されています。(Jpn J Clin Oncol 2008;38(9)581– 588) 

1987年から2003年までに南東北陽子センターで腔内照射された64人の患者が対象です。患者背景は以下の通りです。

 

特徴としては、ほぼ男性の患者で、組織型はすべて扁平上皮癌との事です。

病変の場所は主気管支、葉気管支、区域枝が多く、比較的太い気管に発生した早期の肺扁平上皮癌が対象となる事が多い様です。

腔内照射を選択した理由として、低肺機能もしくは低心機能や多重癌、高齢、手術拒否がありました。

体外照射0~70Gy(中央値:46Gy)+腔内照射10~60Gy(中央値29.3Gy)を併用。

 

腔内照射終了後1ヶ月で効果判定して、腫瘍が消失+細胞診陰性の場合をCR、腫瘍が縮小しているが、細胞診陽性の場合をPRとしたとの事です。 

 

患者は3ヶ月毎に気管支鏡を行い、6ヶ月毎に胸部レントゲン、CTや肝エコー、骨シンチを毎年行い経過観察したとの事です。 

 

結果:治療効果は63例でCR、1例でPR。CRを示した63例中7例で局所再発を認めたとの事です。また、5年全生存率は56%(95%CI、43-69%)、無再発生存率は55%(95%CI、43-68%)でした。

治療関連死は3名あり(4.7%)、2人は肺臓炎、1人は肺出血が原因との事でした。 

 

耐術能が無く、気管~区域枝までの比較的中枢の気道に生じた肺癌(特に扁平上皮癌)であれば、腔内照射は考慮しても良い治療選択肢ですが、どこでも出来る治療ではないので、実際に行えるかどうかは難しいですね。 

 

腔内照射の場合体外照射と併用している事が多く、間質性肺炎などで体外照射が禁忌の症例で腔内照射のみを行った報告は少なく、腔内照射のみの効果は不明である事も注意が必要と思われます。 

 

 

 

がん関連高カルシウム血症

肺癌診療でもしばしば、がん関連の高Ca血症は経験します。

最近NEJMに総説(N Engl J Med 2022;386:1443-51.)が出たので、要点を抜粋します。

 

key points

-  様々ながんの経過で、がんの因子が正常なカルシウム及び骨代謝を圧倒することで高Ca血症を合併する。

-  がん関連の高Ca血症が固形癌進行の後期にしばしば生じて、予後不良を示唆する。

-  がん関連高カルシウム血症は、原発副甲状腺機能亢進症などの非悪性腫瘍を原因とすることがあり、これらは適切な臨床評価と血液検査で除外されるべきである。

-  がん関連高カルシウム血症の患者は一般的に、重度の脱水を呈するため、初期治療には点滴加療をすべきである。

-  破骨細胞性骨吸収の亢進は、腫瘍型またはメディエーターに関係なく、ほぼ常に高カルシウム血症の原因である。

-  適切な点滴加療後に骨吸収阻害剤(最も一般的にはビスフォスフォネートの静脈内投与)を使用してカルシウム値を低下させることが、治療の中心である。

-  がん関連の高Ca血症の治療の成否は、結局基礎にあるがん治療に関わる。

 

 

・がん患者の経過の中で30%程度で生じる。

・非小細胞肺癌、乳がん、多発性骨髄腫、頭頸部の扁平上皮癌、泌尿器癌、卵巣癌で生じる事が多い。

・骨転移で予防的にビスホスホネートもしくはデノスマブを使用している患者では、がん関連の高Ca血症の発生頻度は減る。

・がん関連の高Ca血症は予後不良因子で、発生してからの予後の中央値は25~52日という報告がある。

・高Ca血症患者のケースシリーズでは、他の腫瘍型よりも血液がんや乳癌の患者の方が生存率が向上する可能性が高かった。また治療を受けてカルシウムが正常値に戻り化学療法をうけた患者も生存期間が長かった。

・がん関連の高Ca血症は4つに分類される。

 体液性、局所的な骨破壊、1 25-(oh)2ビタミンd、異所性

 

・体液性高Ca血症は、通常、腫瘍からのPTHrPの分泌によって引き起こされる。

・通常、PTHrPは局所的に産生される成長因子であるが、腫瘍による制御不能な全身性分泌は破骨細胞の骨吸収を増加させ、尿細管でのカルシウムの再吸収を促進させる。

・PTHrPは肺もしくは、頭頸部、乳腺、泌尿器系の扁平上皮癌と関係する事が多い。

・体液性のがん関連高Ca血症患者では典型的には、骨転移は少数か無い事が多い。

 

・局所の骨破壊による高Ca血症は多発骨転移があり、乳がん・多発性骨髄腫で生じる事が多い。

・腫瘍関連のサイトカインが破骨細胞による骨吸収を促進し、骨芽細胞による骨吸収を抑制する。

 

・過剰な1,25-(OH)2ビタミンDは、腸管でのカルシウムの吸収と骨吸収を促進し、高カルシウム血症を引き起こす。

 

・異所性PTH産生は、副甲状腺腫瘍など希な頻度で生じる腫瘍が原因となる。

 

治療 まとめ

・点滴 生理食塩水 1~2Lをボーラス投与。その後200~500ml/hrで投与。

 Caが1~1.5mg/dl程度最初の24時間で低下する事を期待する。

 100~150ml/hrの尿量を得られる様に調整して、輸液過剰に注意する。

 

・ゾレドロン酸 破骨細胞の活動抑制。

 4mgを生食100ml or 5%TZ100mlに溶解して15分で投与(日本ではパック製剤)

 効果:80~90%の患者で48~72時間以内にCaが正常化する。効果は30~40日継続する。(通常は4週毎に投与する) 効果は急性期からあり、低Ca血症になる事もある。特にビタミンDの低下がある時には生じやすい。GFR<60ml/minで用量調整必要。

 

・デノスマブ 破骨細胞の形成、分化、活性化の抑制。 

 120mgを皮下注射する。

 効果:少なくとも70%の患者でCaが正常化して、中央値で104日間効果が持続する。

 急性期からの効果はビスホスホネートよりは少ない事が多い。顎骨壊死や非特異的な骨折は少ない。他の治療をせず、デノスマブを中止した時にはリバウンドで破骨作用が起こる事もある。

 

・フロセミド ナトリウム利尿を介するカルシウムの尿中排泄。20~40mgをiv投与。

0.5~1mg/dl程度の低下を見込む。補液で十分に循環血漿量が保たれてから投与する。

 

・グルココルチコイド 活性化ビタミンDの濃度を低下させる。60mg/dayを10日間投与する。通常はリンパ腫の患者で使われる。原疾患への治療が開始されない限り効果は一時的になりえる。

 

 

Angiosarcoma 血管肉腫と肺転移

Angiosarcoma 血管肉腫は希な疾患ながら、悪性度の高い疾患として知られています。

2004 年までの解析で軟部肉腫の罹患率は 10 万人に 3.1 人で、軟部肉腫の4.1%を angiosarcoma が占め、50%が頭頸部に発症するとの事です。 

頭部顔面発症例は予後不良で、以下の特徴があるそうです。

① 高齢者の頭皮に好発

② 局所多発性

③ 進展が早い

④ 再発しやすい

⑤ 遠隔転移とくに肺転移をおこしやすい

⑥ 予後は極めて悪い 

 

日皮会誌:125(10),1871-1888,2015

 

5年生存率は概ね30~40%で、全生存期間の中央値は6~16ヶ月との事です。

転移しやすい臓器としては、肺や脳で胸膜転移や気胸の合併も多い事が知られています。

1978年から2014年にPubmedで掲載されていた、angiosarcomaに気胸を合併した症例が、21症例あり、16例が男性、5例が女性で男性に多く、angiosarcoma自体は様々な年齢で生じるものの、気胸合併例では高齢者が多かったとの事です。

CTでは嚢胞性病変を有する事が多い。(91%)

The Open Respiratory Medicine Journal, 2014, Volume 8 49

 

Ⅳ期で肺転移のある症例の治療方針は以下の通りです。(頭部血管肉腫診療ガイドラインより)

気胸を起こすという事は胸膜病変があり、ドレーン挿入しても自然治癒が期待出来ないという事だと思います。 

エアリークが遷延する症例においても、予後不良である事から外科的手術適応になれず、胸膜癒着を余儀なくされる事が多いのかと思われます。

上記ガイドラインでも早期に胸膜癒着術が勧められていて、血胸の原因となる胸膜近傍の腫瘍を抑制する目的でIL-2 ないし IL-2 誘導増殖腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の胸腔内投与による胸腔内免疫療法が実施されているとの事です。

 

化学療法としては、ドセタキセルやパクリタキセルなどのタキサン系の全身化学療法が行われる事が多く、放射線治療と組み合わせて3 年生存率は 42%であったと報告もあります。Skin Cancer, 24:377―384, 2009.

 

pazopanib はというVEGFR 経路、PDGFR 経路、およびc-kit リン酸化を阻害するマルチキナーゼ阻害薬も有効性が期待されています。J Clin Oncol 27: 
3126―3132, 2009. 二次治療以降で保険適応で使用可能との事です。

肺癌とmultimorbidity

mutimorbidityは複数の慢性疾患を有する事ですが、特定の診断基準は無く、コンセンサスの得られた定義はありません。

ただ一般的には2つ以上の慢性疾患を併存している状態を指します。フィンランド、イタリア、オランダで行われた研究で65歳以上の男性に関して25年間コホートでフォローした研究で、冠動脈性心疾患、心不全、間欠性跛行、脳血管障害、糖尿病、COPD、癌のセットで年齢、他の疾患、コホートで調整した全死亡の相対リスクは、2疾患以上の併存があるとハザード比が1.58~2.62と上昇していた。最も死亡リスクの高い併存疾患は脳血管疾患との事でした。

A. Menotti et al. / Journal of Clinical Epidemiology 54 (2001) 680–686

 

併存疾患を評価する指標として、
Charlson Comorbidity Index(チャールソン併存疾患指数)があります。

1987年に作られた指標で、各疾患に点数が付けられています。合計スコアに応じて、10年生存率や10年死亡率を予測するというものです。

 

チャールソン併存疾患指数

685人の内科に通院する患者のコホートで10年での死亡率に関して

「0」8%、「1」25%、「2」48%、「3以上」59%で、併存疾患指数のレベルが上がるごとに、併存疾患に起因する累積死亡率が段階的に上昇したとの事でした。

J Chronic Dis. 1987;40(5):373-83.

 

肺癌とmultimorbidityの関係を評価した研究は少ないのですが、2021年にスペインから肺癌患者における半年後の死亡率とmultimorbidityの関係を研究した報告があります。 

 

Niksic et al. BMC Cancer (2021) 21:1048 

要約 
目的:慢性疾患はしばしば、同時期に生じて、有害な健康状態を引き起こす傾向がある。しかし、肺がん死亡率におけるそれらの役割を理解するための研究は限られている。そこで、本研究の目的は、スペインの肺癌患者における1つの慢性疾患(単一併存疾患)または2つ以上の慢性疾患(多疾患併存)の有病率とパターンを明らかにする事、そして単一併存疾患もしくは、他疾患併存の関係性、癌診断後6ヶ月での短期死亡率を検討する事である。
方法:この人口ベースのコホート試験では、二つのスペインの人口ベースのがん登録(ギオナ、グラナダ)と電子カルテから情報を抽出した。我々は2011年1月1日から2012年の12月31日までに診断された1259人の成人肺癌患者を特定した。個々の合併症の最も一般的なパターンを特定した。年齢、性別、喫煙の有無、居住地域、手術の有無癌の病期、組織型、BMIで調整した後、併存疾患のレベル別にがん診断後6ヶ月の短期死亡リスクを評価した。

結果 肺がん患者、特に高齢者、男性、進行がんの患者において、合併症の有病率が高いことがわかった。
特に、高齢者・男性・進行がんの患者・喫煙者・肥満の患者において死亡率が高かった。最も頻度の高い併存疾患は慢性閉塞性肺疾患(36.6%)、糖尿病(20.7%)、心不全(16.8%)であった。最も強いペアワイズ相関があったのは、
心不全と腎臓病(r = 0.20、p < 0.01)、心不全と糖尿病(r = 0.20、p < 0.01)の組み合わせであった。

結論 スペインでは、合併症の数よりも合併症の有無が、肺癌の短期死亡リスクの上昇と関連していた。

 

多疾患併存している事が肺癌の予後と影響があるかもしれないとの結果でしたが、最も有名な予後規定因子であるPSが調整されていないという、、、 

 

base lineを確認すると、高齢・男性・喫煙歴・肥満があるほどmutlimorbidityの頻度が高くなり死亡率が上がるという結果でした。multimorbidityという切り口でなくとも、そういう患者層は死亡率が高くなりそうである事は予測がつく様な気もします。

 

ただ高齢化を迎え、2人に1人は癌に罹患する本邦で肺癌診療(おそらくすべての癌腫で)において老年医学的な側面を無視出来なくなっている事は事実だと思います。

肺癌とPolypharmacyの関係

polypharmacyは老年医学では重要な問題として位置づけられています。5種類以上の内服をポリファーマシーと定義した時に高齢者の脆弱性や認知機能低下、転倒、薬剤有害事象が増えると言われています。(Journal of Clinical Epidemiology 65 (2012) 989e995)

またポリファーマシーは併存疾患や身体的な負担をある程度反映しているはずと言われています。 

肺癌の予後を予測する指標としてもっとも重要なものはPS(パフォーマンスステータス)ですが、Polyphramacyも肺癌の予後予測因子となり得るのではないかという報告が日本から出ていますので紹介します。

Journal of Cancer Research and Clinical Oncology (2020) 146:2659–2668

 

目的
ポリファーマシーは高齢者では頻度の高い問題である。しかしながら、高齢の進行癌患者におけるポリファーマシーの頻度や生存率、有害事象など抗がん剤治療の臨床経過に与える影響については、よくわかっていない。
方法 
我々は2016年~2019年の間でICIの治療を受けた日本人の進行もしくは再発非小細胞肺癌患者を後方視的に検討した。 
結果
157人の65歳以上の患者の中で5剤以上をポリファーマシーの定義とした時に、その頻度は59.9%(94/157)であった。高齢者への処方のスクリーニングツールであるSTOPP criteriaによると、潜在的不適切処方は38.2%(60/157)であった。PFSの中央値はポリファーマシーがある群と無い群でそれぞれ3.7カ月と5.5カ月であった。(P=0.0017)。全生存期間(OS)中央値はそれぞれ9.5カ月と28.1カ月であった(P<0.001)。多変量解析によりポリファーマシーとOSとの関連は認められたが、ポリファーマシーとPFSとの間には有意な関連は認められなかった。ポリファーマシーは、免疫関連の有害事象とは関連がなかったが、ICI治療中の予期せぬ入院の割合が高いことと関連があった。(59.6% vs. 31.7%、P<0.001)。
結論
ポリファーマシーは高齢でICI治療した進行非小細胞肺癌の独立した予後不良因子であった。またポリファーマシーは患者の併存疾患や症候の簡単な指標もしくはICI治療中の予期しない入院の簡単な指標として利用出来るかもしれない。

 

個人的な感想。 

Polypharamacyと肺癌の関係を論じた報告は少なく意義のある研究と思われます。

今後はPolypharmacyへの介入(STOPP criteriaなど)を行う事で予後の改善が期待出来ればおもしろいかなと思ったりします。 

irAE(免疫関連有害事象)とPolypharmacyは関係性が乏しかったのも面白い結果だなあと思いました。

この研究ではEGFR陽性患者も含まれていて、EGFR陽性かどうかは大きく予後の影響するので、EGFR陽性か陰性かで評価しても良いのではないかなあと思っていたら、同じ筆頭著者から、EGFR陽性肺癌患者に対してのPolypharmacyも検討されていて、Polypharmacyと肺癌への情熱を感じました。

以下EGFR陽性例の肺癌患者とPolypharmacyの論文です。 

「Polypharmacy among older advanced lung cancer patients taking EGFR
tyrosine kinase inhibitors」 

Journal of Geriatric Oncology 12 (2021) 64–71

EGFR陽性例でも同様にPolypharmacy群ではOSが優位に短いという結果との事でした。