地方の呼吸器内科医ブログ

呼吸器内科です。今は肺癌に関わる記事を中心に書いていく予定です。

PPIがICIの効果を減弱する可能性

Efficacy of first-line atezolizumab combination therapy in
patients with non-small cell lung cancer receiving proton pump
inhibitors: post hoc analysis of IMpower150

 

British Journal of Cancer (2022) 126:42–47;

https://doi.org/10.1038/s41416-021-01606-4

 

ICIの効果を減弱させる可能性のある薬はいくつか報告があります。ステロイドは機序を考えれば、妥当ですが、抗菌薬も報告があります。(JAMA oncology. 2019 12 01;5(12);1774-1778.) 

抗菌薬による腸内細菌叢の破綻がICIの効果を減弱させている可能性が示唆されています。抗PD-1/PD-L1抗体で治療した患者の腸内細菌と抗腫瘍効果との関係があるという報告もあります。(Gut microbiome influences efficacy of PD-1-based immunotherapy against epithelial tumors. Science. 2018;359:91-7.) 

腸内細菌叢は免疫に大きく関係している事が以前から知られています。

 

今回紹介する論文では、IMPOWER150試験の事後解析です。IMPOWER150試験では、ABCP(Atezolizumab+Bevacizumab+CBDCA+PTX)がBCPに対して有意に全生存期間を有意に延長させました。(OS median:19.8 months vs. 14.9 months , HR: 0.764 , 95%CI:0.630-0.926)

ただ、今回の論文では、PPIの内服が独立した予後不良因子であったとの事で、

PPIにより胃酸が減少し、腸管細菌叢が修飾される事で、ICIの効果減弱されるのではないかという事でした。

不要なPPIは可能であれば減薬すべきと思われます。

 

背景:プロトンポンプ阻害剤(PPI)は、がん治療の併用薬として一般的に使用されており、腸管の微生物叢の変化を引き起こす。
腸内細菌叢異常が免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の効果を低下させることが明らかになりつつある 。しかし、ICI、特にICIと化学療法の併用のアウトカムに対するPPIの影響についてはほとんど知られていない。
方法:第III相試験IMpower150のポストホックCox比例ハザード解析を実施し、PPIとICIの関連性を評価した。
化学療法未治療の転移性非扁平上皮非小細胞肺癌において、PPI使用と全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)との関係を検討した。
非小細胞肺がん患者を対象に、アテゾリズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル(ACP)、ベバシズマブ+カルボプラチン+パクリタキセルBCP)もしくはアテゾリズマブ+BCPABCP)をランダム化した。PPIの使用は、30日以内にPPIを投与した場合と定義した。
結果:1202人の参加者のうち、441人(37%)がPPIを使用した。アテゾリズマブ群(ACP+ABCP)において、PPIの使用は、OSの悪化と独立して関連していた(n = 748; hazard比(HR)[95%信頼区間(CI)]=1.53[1.21-1.95]、P<0.001)、PFS(1.34[1.12-1.61]、P=0.002)。この関連はBCPでは明らかではなかった(n=368、OS 1.01 [0.73-1.39], P = 0.969; PFS 0.97 [0.76-1.25] , P = 0.827).

アテゾリズマブ(ACP+ABCP)群対BCPのOS治療効果(HR 95%CI)は、1.03 (PPI使用群で1.03(0.77-1.36)、非使用群で0.68(0.54-0.86)でした(P=0.028)。また、同様の関連は ABCPBCPにも認められた。(PPI:0.96 [0.68-1.35];  PPI非使用者:0.66 [0.50-0.87]; P= 0.095 )
結論:  PPI使用は、ACPまたはABCPで治療された患者において予後不良のマーカーであったが、BCPではそうでなかった。PPIがICIの効果に悪影響を及ぼすということが今回の検討で示唆された。